北京路の科技書店

広州や珠海に限らず、中国国内の書店のエンターテインメント化が進んでいる。店内でコーヒーや軽食を楽しめるだけでなく、ちょっとした出し物やレクチャー、器楽の演奏などを楽しめるようになっている。しかし昭和生まれの日本人にとって、テーマパーク的な本屋は居心地が悪い。望むらくは、書店たるものもっと硬派で、一見さんお断りくらいの心意気であって欲しい。

 

北京路の北側に、科技書店という古い門構えの書店がある。いつ頃に建てられた建物なのか定かではないが、いわゆる新華書店グループとしては 1949 年にこの地に開業したようだ。名前の通り科学技術系の書物を取り扱う書店で、そのシックな外見に負けず劣らず、店内にもかつての風情が随所に残されている。一階の右半分は文具コーナーで、中国製の万年筆インクの品揃えが、年々寂しくなっていくのを見ると心が痛む。左奥には昔懐かしい音像コーナーがあり、往年の香港ポップスや西洋古典音楽の CD や DVD が売られている。コンテンツの蒐集こそが趣味の王道だったころ、こんな店で裏技的に安価に CD を買い求めては悦に入っていた。

 

科技書店を訪れたからには、大時代的な階段を上って、2 階も覗いてみてほしい。なんだかカビ臭いような、懐かしいような本棚に、数多の医学書などが並べられている。こうした専門書の群れが醸しだす深閑とした空気は、洋の東西を問わず共通だ。スマートフォンではなく書物が、未知なる知への渇望を癒やしていた時代、書店や図書館にコーヒーの匂いなんて必要なかった。

 

【科技书店】
广州市越秀区北京路 336 号
営業日時: 月〜日 10:00 – 22:00

香港フィルのラフマニノフ

香港フィルハーモニー管弦楽団 (Hong Kong Philharmonic Orchestra, 略称: HKPO / HKPhil) の定期演奏会についてご報告する。2023 年 5 月のラフマニノフ・プログラムだが、当「日本人生活情報」は音楽評論専門と言うわけでもないし、速報性は必要ないだろう。メインは、ソリストに上海のチャン・ハオチェンを迎えてのピアノ協奏曲第 3 番。日本での知名度は今ひとつだが、あの辻井伸行と同時にヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した技巧派。前半はラフマニノフの白鳥の歌、「交響的舞曲」と言うなかなか渋いプログラムだった。

 

2012 年に Jaap van Zweden が音楽監督に就任してから、たしかに香港フィルの音は変わり始めた。香港的にアバウトなアンサンブルや、不用意な ff の暴発が当たり前だった 2000 年代までの同オーケストラとは隔世の感が有る。それでなくても本拠地の香港文化中心のホールは、やや小ぶりでオーケストラの音が常に飽和気味なのだが、弦楽器群に規律がもたらされたことで、金管楽器の咆哮がオーケストラを塗りつぶすような場面はかなり減った。

交響的舞曲は、”Time is money” の街、香港に相応しい超快速テンポ。世界各地から集められた木管楽器の名手たちが、細かいパッセージに必死に食らいつく様は、サーカス的な意味で見ものではあった。協奏曲でも一貫して速めのテンポが維持され、ソリストの絢爛たるヴィルトゥオジティがいやが応にも開陳されていく。ロマン派ピアノ協奏曲の極北に位置する「ラフ3」を、最後のオクターヴ下降音形の速さだけで評価してはいけない。それでは作曲家の遺したスコアが、ポルノに堕してしまう。とまれ、トップスピードでコーダに突入した演奏は、聴衆を興奮の渦に巻き込み、会場はブラボーの嵐に包まれた。

体力が有り余っているゲルマン民族のオーケストラと比べ、香港フィルの演奏会は実質演奏時間がかなり短めに設定されている。このあたりも、いかにもコスパ重視の香港らしい。終演後、尖東のバス停までダッシュして A21 のバスに乗れば、香港珠海マカオ大橋経由で、その日のうちに珠海ないしマカオまで戻れるのも、なかなか粋な計らいだ。

なお、珠海市内から香港への移動については、当ウェブサイト内の「珠海から香港へバスで」を参照していただきたい。 https://zhuhai.jp/bushkg.html

一徳路の乾物街

 

食の街、広州の味覚を裏から支えているのが、一徳路の乾物街だ。今でこそ地下鉄の 6 号線が開通し、一徳路駅で降りれば簡単にアクセスできるが、一昔前はたどり着くのも一苦労。海珠広場、長寿路、黄沙などの地下鉄駅に囲まれた空白地帯のど真ん中に有り、よほどの用事がなければ旅行者や駐在日本人が訪れる場所ではなかった。

 

この一徳路から文化公園にかけての一帯は、広州が急激に変化した 2000 年代に、ちょっと忘れられていたような感じの土地だったので、幸いなことに、騎楼などかなりオリジナルに近い形で残っている。ここに来れば、騎楼が広州人の生活場所の一部として必要不可欠なことが理解できるだろう。広州において「街坊 (がい ふぉん)」は、ただの街角なんかではなく、立派な生活コミュニティだ。

 

北京路や上下九のペンキで均一に厚化粧された騎楼は、お上りさんを喜ばすテーマパークのようなシロモノにすぎない。

 

広州随一、いや中国随一の乾物街だけあって、ここでは何でも売っている。と言いたいところだが、どうも食習慣の違いからか、カラスミの入手だけは相当に困難だと聞いた。

 

なお、珠海 – 広州間の移動については、当ウェブサイト内の「珠海から広州へバスで」も参照していただきたい。  https://zhuhai.jp/buskwc.html

関空国際線「ANAラウンジ」午前11時以降プライオリティ・パス利用者の利用が可能に

クレジットカード上級会員などが加入している空港ラウンジ会員の「Priority Pass(プライオリティ・パス)」はこのたび関西空港国際線セキュリティエリア内の「ANA LOUNGE(ANAラウンジ)」を午前11時以降で最長3時間の利用が可能になると発表した。

場所は、第1ターミナル国際線ゲートエリア北ウイング(イミグレ入って左側)2階、15番ゲート付近。現在同ラウンジの利用可能時間は、月・水・土曜が午後9時半まで、火・木・金・日曜が午後5時までとなっているが9月1日からはすべての曜日で午後9時半まで利用可能となる。

ANAでは以前は羽田空港と成田空港の国際線のANAラウンジでプライオリティ・パスの利用が可能となっていたが現在は成田空港国際線ターミナルのみとなっていた

貴華路の源記腸粉

西關の飲食店には、雨風をしのぐ壁や屋根が無いことが多い。そもそもレストランの定義がかなり曖昧というか、ずいぶんと鷹揚なのが下町の魅力だ。そんな壁がない店舗のひとつ、源記腸粉はくだんの龍津路から南下する貴華路で 30 年以上の歴史を刻んできた。このあたりを歩いていて、広東でよく見かける赤いプラスチックの椅子と人だかりをみつけたら、きっとそこが源記腸粉だろう。

 

広州の腸粉は大きな一枚物の絨毯で、ほかの街のちまちまとした「ライスロール」とは別次元の野性的な美味しさが特徴だ。過激な競争原理によって、異常なレベルにまで洗練された香港の飲茶でも、腸粉についてだけは広州のものに匹敵しえない。「源記腸粉は広州式腸粉のホームラン王です」と、誰かが言ったとか言ってないとか真偽はともかく、この店もインターネットによって随分と有名になってしまった。観光シーズンには、やたらと上機嫌な観光客たちに呪詛の言葉を吐きながら、長蛇の列に並ぶしかない。

 

広州の腸粉専門店には、アルミのそっけないテーブルがよく似合う。サービスも、もちろんそっけない。自分の注文が聞き取れないと、店員さんに激しく叱責されることも。だいたいが広州には暑すぎる季節しかないので、アウトドアでワイルドな食環境もじわじわと体力を削りにくる。一体、広州人はこんな環境で食事して楽しいのだろうか。。。そして、幾重にも張り巡らされたバリアとトラップを乗り越えた末に、辿りついた一皿が、陶酔のひと時を与えてくれた。

 

食は広州に在り。ヒトは西關に在り。

【源记肠粉 (华贵路店)】
广州市茘湾区华贵路 93 号
営業日時: 月〜日 8:00 – 19:00

龍津路の伍湛記

前回に引き続き、広州の下町グルメをご紹介する。「西關」は、もともと広州が城壁に囲まれた都市であった頃、西の城門の外に位置した地域だ。以降、拡大した広州の中心地として繁栄し、対外貿易が盛んになった 19 世紀末からは、西關大屋と呼ばれるユニークな様式の建築が数多く建てられた。現在でも、広東地方独特の騎楼が此処そこに残り、風情ある街並みを楽しむことができる。なにより、広州本来の味覚を堪能しようと思ったら、この西關地域を訪れるに如くはない。

 

「伍湛記」は 40 年以上の歴史をもつ西關を代表する老字号の一つだ。老広州ならではの状元粥が名物だが、ほかにも、咸煎餅や干炒牛河などはぜひここで食べてみたい。人気の咸煎餅は、時間帯によって売り切れていることもしばしば。一見、単純な揚げ菓子だが、ほのかな甘みがやみつきになる。出来たて熱々、油ぬらぬらの干炒牛河は、文字通り寿命と引き換えの美味しさ。

 

ソーシャル・ディスタンスへの配慮もバッチグーで、店員のおばちゃんたちは、いつも 10 メートルの距離を保って大声で会話をしている。ここでは、おばちゃんたちのイキのいい広東語も、料理の味を引き立てる恰好の BGM だ。

 

B 級グルメと切って捨てるにはもったいない、広州伝統の庶民の味。伍湛記は現在、荔湾区の美食ストリートとして名高い龍津路で 2 店舗を経営しているようだ。龍津路にかぎらず、この一帯では、数多の老字号、名店、個人商店が頑張っている。「書を捨てよ、町へ出よう」。インターネットの情報なんかに頼らず、ときには自分の鼻と舌だけを頼りに、あなただけの Stammtisch (常連席) を見つけてみては?

なお、珠海 – 広州間の移動については、当ウェブサイト内の「珠海から広州へバスで」も参照していただきたい。  https://zhuhai.jp/buskwc.html

【伍湛记 (龙津中路店)】
广州市茘湾区龙津中路 344 号
営業日時: 月〜日 7:30 – 23:00

その他、龍津東路に店舗有り

普洱茶で一抹の涼を

日本も珠海も広州も、酷暑が続いている。こんなときには広東人の魂、普洱茶 (プーアル茶) で涼をとってみるのはどうだろうか。大益茶といえば、普洱茶界のジオン公国と称される大企業で、大益のアンティークな普洱茶餅など、好事家の間でポケモンカード以上の値段で取引されている。数十年前の茶餅などはとても手を出せない値段だが、中産階級の日本人は大益の直営店で、世にも珍しい普洱茶のアイスクリームを楽しんでみよう。

場所は広州の下町随一のインスタ映えスポット、永慶坊。上下九というちょっと変わった名前の繁華街から、荔湾湖公園に至る一帯が、近年大規模に再開発された。永慶坊は、この再開発の目玉とも言うべき場所だ。これにより、昔ながらの古色蒼然とした静謐な「西關」の雰囲気は失われてしまったが、一定の経済効果は有るのだろう。休日など、以前と比較にならない人出の多さだ。ちなみに、ブルース・リーが幼少期に住んでいた家もここにある。

「大益茶庭」は、大益が総力を結集して作ったトレンディでオシャンティな普洱茶カフェだ。(たぶん) ここでしか食べられない普洱茶のアイスクリームは、蒸し暑い広州の街歩きに疲弊した身体を、ひんやりと癒してくれる。他にも、賞味期限が異常に短いフレッシュな普洱茶ソーダなどもあり、こちらも暑い日にはオススメ。近未来的な内装の店内では、普洱茶葉以外に、大益所有のプロ・バスケットボール・チームのグッズも販売されている。どうやらこのチーム、毎年のように中国国内リーグを制覇しているようで、まさにジオンの名に恥じない戦績だ。

なお、珠海 – 広州間の移動については、当ウェブサイト内の「珠海から広州へバスで」も参照していただきたい。  https://zhuhai.jp/buskwc.html

【大益茶庭 (永庆坊店)】
广州市茘湾区恩宁路永庆大街21号
営業日時: 月〜日 11:00 – 21:00

広東人の LAWSON フィーバー拡大中

武漢から広東省へ出張中の日本人に朗報。ご周知のことと思うが、あの LAWSON が広東各地で続々と新店舗を展開している。武漢でコンビニと言えば、LAWSON (中百罗森) と Today (今天) だろう。近年はセブン-イレブンの躍進も目覚ましいが、すでにして LAWSON に飼い慣らされた武漢系日本人は、こと広東において深刻な LAWSON ロスに苛まされてきた。そんな中、武漢でお馴染みの「中百」LAWSON でこそないが、とにかく LAWSON が猛烈な勢いで店舗数を拡大しているのはありがたい。

 

写真はつい最近、広州市内の越秀公園前に開店したもの。佛山市内でも、すでに 2 店舗がオープンしたと聞く。

 

そして国境の街、珠海でも LAWSON プロジェクトが始動している。富華里や新都心をふくめ複数店舗の開業が予定されているようだ。今回、取材に訪れたのは、前山地区で最も集客力のあるショッピングモール、珠海環宇城の一階。環宇城の 6 号門と言っても分かりにくいが、ショッピングモールとルネッサンス・ホテル (珠海中海万麗酒店) を繋ぐ、前山河に面した大がかりな車寄せの脇で、内装工事を行っていた。

 

第二の故郷、武漢を遠く離れて、どうしても珠海に宿泊しなければならない場合。ルネッサンス珠海を選べば、徒歩圏内にいつもの青いコンビニが有るので、ちょっとだけ安心だ。

9月1日より関空~深圳デイリー化

深圳航空は9月1日より関西空港~深圳便を毎日運航に増便する.

今年の7月8日より月曜日・木曜日・土曜日の週3便の運航となっている関空~深圳便は日本行団体旅行ビザ取得解禁措置を受け9月1日から毎日運航する。運航機材は引き続きA320型機を予定。

関西空港は中国旅行客に人気の奈良、京都、大阪、神戸に近く深圳航空は秋の行楽シーズンの乗客増に対応する

【運航スケジュール】9/1より
ZH8064 関西17:00→20:25深圳 毎日
ZH8063 深圳10:05→14:55関西 毎日

また昨日中国東方航空は9月27日より札幌~上海浦東便を週2便で再開すると発表。
当サイトでは上記最新フライト情報を9月1日-12月31日時刻表PDF版に掲載している

聖地巡礼: 少林サッカー

「男たちの挽歌 (英雄本色)」なら銅鑼湾のチョウ・ユンファ車清掃ビル、「インファナル・アフェア (無間道)」なら上環のアンソニー・ウォン墜落ビル、「ファイト・バック・トゥー・スクール 2 (逃學威龍 2)」なら寳馬山の漢基國際学校など、香港には、香港映画を生き甲斐とする日本人のテンションがおかしくなる、映画ロケ地が数多く存在する。それは、広大とは言えない香港であれだけの数の映画を生み出したのだから、ファンが巡礼すべき聖地が至るところにあって当たり前とも言えるが。。。翻って、80 年代以降の香港映画黄金期には、広州や深圳などの中国本土はあくまで映画の味付けとしてしか登場せず、本格的な本土ロケと言えば、香港で撮影しにくい時代劇や戦争シーンなどがメインだった。

 

1999 年、世界の映画界を震撼させた一本の映画が、珠海で撮影される。2001 年公開の「少林サッカー (少林足球)」だ。すでに「食神」や「喜劇之王」で、香港では飛ぶ鳥を落とす勢いだったチャウ・シンチーの実質的世界デビュー作。今作は、当時の香港映画興行収入記録をかるく塗り替え、じつに世界 32 か国で上映された。

 

この記念碑的映画の多くの部分が珠海で撮影されたことは意外に知られていない。今回、訪れたのはヒロイン (ヴィッキー・チャオ) の勤務する饅頭屋の店先。ここでヒロインが披露する太極拳がのちのストーリー展開にも大きな役割を果たす。また、有名なダンスのシーンの背景に映り込む、香山公園の南門もこの店の向かいにある。率直に言ってしまえば珠海市内のどこにでもありそうな路地だが、ロケハンでここを見つけ出したスタッフの慧眼により、映画史に残る名場面が生まれた。珠海在住の香港映画ファン、シンチー・ファンには、一度は訪れていただきたい珠海の名所だ。

 

他にも、決勝戦の宿舎は珠海度假村酒店、決勝戦は珠海市体育中心のスタジアム、どちらも珠海市内で撮影されている。