タウナギの土鍋飯

武漢の鰻屋が閉店するようだ (詳細はこちら)。日本式の鰻をリーズナブルに楽しめるので、武漢出張の際には、かならず寄っておきたい店の一つだった。辺境の地、珠海にはこんな気の利いた店は無いので、日本人がめったに食べないタウナギ (黄鱔) でも食べてみようと思う。タウナギの調理法は中国各地でさまざまだが、ここ広東では台山名物、黄鱔煲仔飯 (タウナギの土鍋飯) が最もポピュラーだ。

せっかくなら本格的なものを食べたいので、老珠海の象徴「檸溪文化広場」に向かう。しつこいようだが、20 年前は、珠海で最高にクールでイケてるスポットだった。今回訪れたのは、文化広場から檸溪路を挟んで真向かいの「明鳳台山黄鱔飯」。店名もじつに簡潔で潔いし、七色に光るデーハーな看板もなかなかよろしい。

店内は最近改装されたとかで、まあまあ清潔感がある。黄晶果と称する謎の激甘フルーツの押し売りにあったのはご愛嬌だが、メニューは総じて良心的。場末と言ってしまっては失礼だが、こんな何気ない食堂でも、そこらの海鮮系大牌檔 (たい ぱい とん) の水準を軽く超える味を提供してくるのが、さすが広東。オススメ料理の黄鱔煲仔飯は、淡水魚特有の臭みが心配なところ、絶妙な量の香菜で爽やかに仕立ててあった。まさに夏バテに最適の煲仔飯だ。海鮮料理などは、「これを香港で食べたらいくら。。。」などとついつい庶民派の思考になってしまうが、香港のテンプル・ストリートで観光客に囲まれるよりも、こちらで地元のオッサンたちに囲まれる方が、よほどリラックスして食事を楽しめる。

【明凤台山黄鳝饭 (柠溪店)】
珠海市香洲区香洲区柠溪路 471, 473, 475 号
営業日時: 月〜日 09:30 – 22:00

蔡瀾港式点心

蔡瀾 (つぉい らん) という怪しいオッサンを覚えているだろうか?けっこうまともな日本語を操り、一時は日本のテレビ番組にも頻繁に出演していた。かの「料理の鉄人」では、香港のシェフを引き連れて、フカヒレやハタで鉄人に対決を挑んだこともある。「ヤッパネ、アブラ、ラードツカワナカッタノガ。。。」と、鉄人にも臆さず料理にケチをつける毒舌美食家なのだが、じつは本業は映画のプロデューサーだったりする謎のオッサンだ。当然、飲食業にも手を出し、ジャッキー・チェンが「毎日、ぬ (飲) んでいます 」と日本語で話す CM で、日本の香港映画ファンを沸かせた暴暴茶も、このオッサンのプロデュースによるもの。

 

そんな蔡瀾が最近プロデュースして、着々と店舗数を増やしているのが「蔡瀾港式点心」だ。店頭には等身大の蔡瀾像を配し、しっかりとアピールしてるあたり、いかにも香港人っぽい (ご本人は、シンガポール生まれのマカオ籍)。昔ながらの飲茶レストランは、一族郎党が集まって点心を楽しむための場所なので、それぞれの円卓がやたらと大きくて、少人数では使いにくい。繁忙期の週末の朝などは、知らないおじいちゃんたちとの相席が当たり前だ。それはそれで風情があって面白いのだけれども、「少人数で気軽に香港式の点心を楽しんでくださいね」と言うのが本店のコンセプト。テーブルの配置など、明らかに普通のレストランに近い。

 

したがって、料理の方も若者たちの SNS 映えを十分に意識したものとなっている。香港一の美食家が関わっているので、けっして不味いわけではなく、味も見た目もとりあえず小綺麗にまとまっている。それは広東の若者だって、どうせならオシャレなモノを食べて、SNS で思いっきり自慢したい。しかし、なんとなくスナック菓子の延長のような点心、と感じてしまうのは、ひねくれた日本人のオッサンだけだろうか。。。

 

【蔡澜港式点心 (岭南站NOVA店)】
佛山市禅城区祖庙路 29 号 
岭南站 LG1 东门
営業日時: 月〜日 10:00 – 22:00

その他、広東各地に店舗有り

閉店情報: Taco James


この日が来るのは分かっていた。珠海のタコス専門店、Taco James 環宇城店が 2023 年 8 月をもって閉店した。同店が営業していたショッピング・モールは、珠海の前山地域最新の人気モールなので、立地は問題ないはず。しかし、周囲の飲食テナントやファーストフード店の盛況に比べ、Taco James では閑古鳥と言っても過言ではない状況が続いていた。けだし、食材とコンセプトが、今の珠海には早すぎたのだろう。

 

珠海版「ぴあ」と自他共に認めている「珠海日本人生活情報」では、過去にこの名店について、一本の記事を掲載している。ご興味のある方は、こちらもご参照いただきたい。Zhuhai.jp の援護射撃をもってしても、Taco James の延命をはかることは難しかった。珠海に於けるタコス受容史はまだ始まったばかり。在りし日の姿をここに掲載し、同店の捲土重来を心から祈る。



武漢漢口飲み屋街に立ち退き通告

武漢で日本人が一番多く住んでおり、利用している飲食店の多い漢口の新世界ホテルエリアがこのたび武漢市都市再開発の対象となり、昨日から複数の飲食店に9月28日までの立ち退き要請が来ている。
対象は下記地図の赤い線の内側で、このたび9月28日までの立ち退き要請のある店は下記通り
■日本料理店
深夜酒場ないす  蕎鰻屋  竹馬
■飲み屋・スナック
ROSE・OCEANS・M Bar・GAGA

これらの店の中には閉店する可能性もあるため(もしくは名前を変えて違う店として出すなど)広州から武漢出張時のボトルキープは飲み切ることをお勧めする。
また移転による新店開店資金集めのため高額なボトル費用を請求する可能性もある
当サイトの姉妹版WUHAN.JPではこういったぼったくり店を排除した健全なナイトクラブを紹介している。武漢出張の際はしばらくこのサイトの店に行かれることをお勧めする。
http://www.wuhan.jp/night/

珠海のピノキオ

 

もちろん珠海にも、有名なポルトガル料理店が存在する。もはや老字号と呼んでよいほどの歴史を持つ、九洲港近くの「ピノキオ (澳門木偶葡國餐廳)」だ。なんでもマカオに「ダンボ」と名乗るポルトガル料理の老舗があり、そこからゴニョゴニョと大人の事情で分家し、珠海に進出してかれこれ 20 年以上が経過したと言う。やむにやまれぬ経緯があったのだろうが、料理の方はしっかりと直系で引き継いでおり、いつしか珠海のポルトガル料理を代表する存在となった。

 

石花東路のピノキオがある一画には、他にも (珠海にしては) 悠久の歴史を誇る日本料理店やインド料理店が有り、夕食時など駐車スペースを確保するのも一苦労だ。店内は、風格のあるゆったりとした空間で、ポルトガル風の内装で落ち着いて食事を楽しめる。2 階には個室やパーティールームのようなシックな広間も有り、天気が良ければテラスに出ることもできる。かつては九洲港を望む絶好のロケーションだったのだが、残念ながら今は港の工事現場ビューだ。

 

ところで、こちらのメニューの表紙、宗家のダンボ同様、われわれ日本人にもとても親しみのあるキャラクターが使われてる。どうも著作権関係については、比較的無関心な一族が経営しているようだが、なにしろ喧嘩を売る相手が大御所なのでこちらの方がビビってしまう。

 

鰯の塩焼き、鱈のコロッケ、ムール貝、ポルトガル・チキンなど、一通り以上のポルトガル料理が揃っていて、ちょっと珍しい西洋風炒飯も美味しかった。なにかと一皿が大きいので、少人数の会食には向かないのが難点だが、珠海で中国料理や茶餐廳に疲れたときなどに重宝する。

 

【澳门木偶葡国餐厅 (珠海店)】
珠海市香洲区石花东路 30-32 号
営業日時: 月〜日 10:30 – 22:00

ホテル・リスボアの編みパン

 

コタイ・ストリップの発展に伴い、かつてのマカオ随一の集客力を失ったホテル・リスボア (澳門葡京酒店) だが、相変わらず食べ物のレベルは高い。カジノ王にして稀代の美食家だったスタンレー・ホーが世界中から掻き集めてきた美味の数々は、今でも立派に生き残っている。リスボア・ケーキ・ショップ (葡京餅店) のパンもその一つ。食パン、クロワッサン、マフィンから菠蘿包まで、パン、パン、サラダ、パンと世界各地のさまざまなパンが揃っているが、どれも原産地の製法にできる限り準じているので、相当に本格的だ。

 

以前は、ここのチョコレートが見た目も綺麗で美味しかったので、マカオ土産の定番のひとつだった。どうも最近は、チョコレートの販売はしていないのでこれは残念。ホテル地下一階にある樂宮餅店のクッキー “Lucky Cookie” は相変わらず人気のようだが、この字面を見ると、バンコクはヤワラーの外れにあった樂宮ホテルを思い出してしまい、話と意識が飛びそうになる。そう言えばフアランポーン駅も今はその役目をほとんど終えて、周囲は再開発の真っ只中だ。

 

閑話休題。ここのレーズン・パンも逸品のひとつで、スイス、ベルン地方特産の Zopf (編みパン) を、かなり忠実に再現している。レーズン入りのものなので、正確には Rosinenzopf と言うべきか。ちなみに、日本人にはドイツ語の ~pf の発音は難易度が高いので要注意。往年の名ソプラノ、Elisabeth Schwarzkopf は、カタカナでシュヴァルツコップなどと表記されるが、実際には唾液を 10 メートル飛ばすつもりで「コップフ!」と鋭く発音すべし。

 

【葡京餅店】
澳門葡京路 2-4 號
葡京酒店地下
営業日時: 月〜日 07:00 – 19:00

ドン・ガロのミンチーとリゾット

マカオから香港空港へのアクセスが容易になると言うことで、マカオのポルトガル料理店を一軒。「ドン・ガロ (公鷄)」は、1987 年に官也街に開業したポルトガル料理の有名店だが、現在はマカオ半島で 2 店舗を経営している。ガイドブックに必ず掲載されているような有名店だし、インターネット上に日本語によるブログ記事も多いので、かえって紹介しにくい。たまにはこんなベタな記事も良いだろう。美味いモノは美味いのだから。

  

魚介類を中心にしたポルトガル料理は、日本人の舌にも親しみやすいので、ここでは、どんなメニューでも臆さず試してみたい。マカオ料理より若干敷居が高いポルトガル料理店の中では、群を抜いたコスパの高さゆえに、財布の心配はしなくても大丈夫だ。有名なコロッケ、焼き魚、チキンなど敢えて説明の必要もないだろうが、忘れたくないのはマカオならではのミンチー (免治) with ライスと、海鮮の旨みが凝縮されたリゾット。広州ガパオ研究会としては、これだけの為に広東省からマカオに赴く価値があると断言できる。これすなわち、江戸の敵をマカオで討つ。

 

まるでポルトガル旅行をしているかのような、とまでは言わないが、気の利いたインテリアもうれしい。中国料理の接待用宴会個室に食傷しておられる珠海の重職日本人の面々には、よい気分転換になるだろう。

 

【公鷄葡國餐廳 (新口岸店)】
倫斯泰特大馬路 32-36 號
帝景苑地下 AF-AG 號舖
営業日時: 月〜日 12:00 – 23:00

その他、新馬路に店舗有り

珠海の老字号で飲茶

情報化社会の弊害なのか、広東省内の飲茶の味が平均化されてきたような気がする。よく言えばハズレが減ったのだろうが、香港と広州の微妙な味付けの違いなど、昔ほど鮮明ではなくなってきた。たしかに香港の点心は巧緻にして洗練されたもので、これを踏襲しさえすれば、どの街でも相当以上の支持を集められるだろう。広東料理のホームタウン、広州に於いてさえ、猫も杓子も香港資本の利苑酒家 (Lei Garden) で飲茶を楽しむ時代になってしまった。しかし、人間なんて贅沢なもの。香港の都会の水で磨き上げられた点心ばかりを食べていると、味に面白みがないとか、嶺南の風情が足りないとか、意味不明なことをボヤき始める。

 

そんな懐古厨のあなたにおすすめなのが、珠海の老字号、利苑海鮮酒家だ。ド派手な玄関や、やたら元気な料理の立て看板を見るだけでも、珠海がもっとギラギラしていた時代にフワッとタイムスリップできる。店内は平日の昼間でも、地元やマカオからの常連客でほぼ満席。正直、どこかのリーガーデンとは比較にならないコスパの良さなので、混雑も至極当然だ。そしてまったくの主観ながら、やはり広東式の飲茶は「ハイラー!レイガァー!ンゴンゴ!」と広東語の喧騒に包まれながら食べた方が、八割がた美味しく感じる。

 

絶対に食べたい蝦餃 (はー がう) は海鮮酒家の強みを十二分に活かした、採算度外視のエビの質と量。原価厨のあなたもこれには大満足。世界中から押し寄せる観光客を納得させるために、香港の点心は軽やかさという道を選択したのだと思う。香港の月餅がいつのまにか、西洋菓子のムーンケーキに変容したのと同じように。しかし、ここではギリギリ踏み外す一歩手前の、荒々しくも繊細な点心が楽しめる。決して味が濃いわけではなく、どことなくその重心は低く、しかし田舎っぽくはならない。かつての広州の味に近い部分もあるが、当店ならではの仕掛けも多い。叉焼包を手にして、そのズシリとした重みに驚いたのは初めての経験だった。

 

他にも、サプライズ入りの特大菠蘿包や、名物料理の石磨腸粉など、通好みの外せない料理が多い。ノスタルジックなこだわりが強くなりすぎたタイプの日本人には、あつらえ向きの名店だ。

 

【利苑海鲜酒家】
珠海市香洲区桂花北路 42 号
営業日時: 月〜日 08:00 – 14:30, 17:00 – 21:30

明華餅店の雞仔餅

広州には、雞仔餅 (がい ぢゃい べん) という不思議な焼き菓子がある。その名に反して、鶏肉は使われておらず、豚肉ビスケットなどと和訳されることも多い。なんでも、小鳳餅とかいうオリジナルの名前から、回り回って雞仔餅と言う通名が広州人の間で定着したようだ。小麦粉の生地に味付けした豚肉を練りこんで、焼き上げたものと思っていただければ、おおかた間違いはない。

この雞仔餅、老婆餅や広東式月餅のような一軍の広州土産と比較して、日本人の間では知名度も人気もいまいち。そもそもけっこう脂っこいので、日本人の味覚にピッタリ合うものでもない。今や観光客の巡礼地と化した蓮香樓で、いかにもお土産然とパッケージされたものを興味本位で買って、おおいに失望した方も多いのではないだろうか。

北京路から海珠広場までわざわざ歩きたがる日本人もそうそう居ないと思うが、その中途に「明華餅店」がある。1983 年開業の老字号だ。広東式の超柔らかいパンならぬ麺包を売っていて、これはこれで昔ながらの製法の絶滅危惧種。とは言え、ここの名物は焼き立ての雞仔餅だ。通りを歩いていると、脂の焦げる匂いが鼻腔をくすぐり、焼きあがった雞仔餅が次から次へと店内から搬出されてくる。おばちゃんの手作業による量り売りなので、これをゲットするためにはちょっとした語学力と厚かましさが必要だ。物欲しげに並んでいるだけでは、自分の順番は回ってこない。無事に入手できたら、とにかく温かいうちに一口。小綺麗に包装された養殖物とはダンチの、粗野な味わいと脂が口中に充満するので、これもまたひとつの広州の味と思って楽しんでほしい。

なお、珠海 – 広州間の移動については、当ウェブサイト内の「珠海から広州へバスで」も参照していただきたい。  https://zhuhai.jp/buskwc.html

【明华饼店】
广州市越秀区起义路 78 号
営業日時: 月〜日 07:00 – 23:00

一徳路の乾物街

 

食の街、広州の味覚を裏から支えているのが、一徳路の乾物街だ。今でこそ地下鉄の 6 号線が開通し、一徳路駅で降りれば簡単にアクセスできるが、一昔前はたどり着くのも一苦労。海珠広場、長寿路、黄沙などの地下鉄駅に囲まれた空白地帯のど真ん中に有り、よほどの用事がなければ旅行者や駐在日本人が訪れる場所ではなかった。

 

この一徳路から文化公園にかけての一帯は、広州が急激に変化した 2000 年代に、ちょっと忘れられていたような感じの土地だったので、幸いなことに、騎楼などかなりオリジナルに近い形で残っている。ここに来れば、騎楼が広州人の生活場所の一部として必要不可欠なことが理解できるだろう。広州において「街坊 (がい ふぉん)」は、ただの街角なんかではなく、立派な生活コミュニティだ。

 

北京路や上下九のペンキで均一に厚化粧された騎楼は、お上りさんを喜ばすテーマパークのようなシロモノにすぎない。

 

広州随一、いや中国随一の乾物街だけあって、ここでは何でも売っている。と言いたいところだが、どうも食習慣の違いからか、カラスミの入手だけは相当に困難だと聞いた。

 

なお、珠海 – 広州間の移動については、当ウェブサイト内の「珠海から広州へバスで」も参照していただきたい。  https://zhuhai.jp/buskwc.html