ゴンチカの茶餐廳

拱北口岸地下商場 (通称: ゴンチカ) 。かつて珠海へのアクセスが、マカオからの陸路と、香港、深圳からの海路にほぼ限定されていた頃、ゴンチカは経済特区珠海の繁栄を象徴する場所だった。マカオから拱北ボーダーを越えて、珠海に入るといきなり姿を現す広大な地下ショッピングモール。半円状に四方八方へと広がる通路は、ちょっとしたダンジョンの様相を呈していた。衣類やカバン類はもちろんのこと、携帯電話などの電子機器 (スマートフォンなんてこの世に存在していない時代) から大人の事情でやたらと安いブランド物まで、当時のゴンチカで手に入らないものなど無かった。

 

それほどの栄華を誇ったゴンチカも、珠海 – マカオ間のボーダー増設や新都心の開発、経済構造の変化に伴い、現在は縮小傾向にある。以前は地下 2 階まで個人商店やスーパーがずらりと並んでいたが、今は地下 1 階のみ。地下 2 階は急造の駐車場になってしまった。

 

そんなゴンチカで長く営業を続けた、マカオ式茶餐廳がひっそりと閉店していたので、記憶に留めるため、記事にしておく。このショッピングモールで、マカオ側を背にして右側は、以前から飲食店が集中する場所だった。その中でも最大の規模と人気だったのが、新寳餐廳だ。メニューの基本はマカオ式の茶餐廳で、おなじみのミルクティーやレモンティーの他、マカオ式の猪扒包 (ポークチョップサンド) などを提供しているのが香港や広州と違う。こうした定番メニューに加え、麺類などの中国料理も普通以上に美味しかった。ゴンチカにしてはかなり広めの店内はいつも満席で、注文を取ってもらうのも一苦労。国境地帯特有のエネルギーと喧騒に溢れた雰囲気で、客たちは広東語や中国語でいつも大声で捲し立てている。日本人にもファンは多かったようだが、近年の時流には逆らえなかったのか、気がついたらその歴史に幕を下ろしていた。

老兵は死なず、ただ消え去るのみ。

前山港の香港式茶餐廳

香洲区の前山地域と南屏地域を隔てる前山河。かつては珠海と内陸部を繋ぐ水運の一翼を担っており、数十年前には河口付近の前山港から桂林まで、船旅を楽しむこともできたと言う。そんな交通の要衝だった前山港も、南屏地域の急速な開発、河岸の整備事業に伴いその役割を終え、今はその小ぶりな建物に昔日の面影を残すのみである。今回は、そんな前山港に居を構えるユニークな茶餐廳をご紹介する。

漁記茶餐廳 (前山支店) は、珠海人の手による本格的香港式茶餐廳。本店の開業は 2017 年と比較的最近だが、この前山支店も週末は長蛇の列が店外にまで並ぶ人気店だ。ここが珠海の一般的な茶餐廳と一線を画すのは、徹底した香港の茶餐廳の再現にある。香港人のソウルフード、菠蘿包 (パイナップルパン) と奶茶 (ミルクティー) の開発に文字通り心血を注ぎ、メニュー、内装ともに香港の茶餐廳をほぼ完璧に再現している。いかにも香港の店舗にありそうな小物が随所に配置され、壁のタイルの貼り方にも本場再現の強い意気込みとこだわりが感じられる。

 

当然ながら、どの料理も味は折り紙つき。写真は、香港映画の最高傑作「男たちの挽歌 (英雄本色)」冒頭、チョウ・ユンファが皇后像広場で食べていた混酱豬腸粉。こんなシンプルな一皿もしっかり美味しい。

【渔记茶餐厅 (前山店)】
珠海市香洲区港昌路港口一巷201号主体第3、4、5、6间 (前山河边)
営業日時: 月〜日 11:00 – 20:00
拱北、唐家湾などにも店舗有り

珠海でラクサを?!

中国でマカオに一番近い街、珠海。その影響からか、珠海市内には無数の香港式 / マカオ式の茶餐廳が見られる。今回ご紹介するのはその中でも珍しい、シンガポールの名物、ラクサを売りにした茶餐廳。

「老香洲」と呼ばれるかつての珠海の中心地にある众记茶餐廳は、屋内外合わせて20席程度の小さな店。いかにも広東の茶餐廳を感じさせるメニューに並んで、なぜか14 種類ものラクサ (叻沙) がオススメされている。違和感を覚えつつも、ネット上でもなかなか評判が良いし、せっかくの機会なのでラクサを注文。メニューを見ても分かるが、メインの具が強烈に広東風味を主張してくるものの、麺とスープはかなり本格的。しばし、シンガポールに想いを馳せるひと時を、老珠海のど真ん中で楽しむことができた。

この辺り、あまり在住外国人が出歩く地域ではないが、古株の珠海人なら「檸溪文化広場」のすぐ隣と言えば、必ず分かってもらえる筈。20年前は、珠海で最高にクールなスポットだった (らしい)。時には、ラクサ目当てにちょっと古めの街並みの散策でもいかが?

【众记茶餐厅 (柠溪店)】
珠海市香洲区香溪路112号103铺
営業日時: 月〜日 10:00 – 20:00