貴華路の源記腸粉

西關の飲食店には、雨風をしのぐ壁や屋根が無いことが多い。そもそもレストランの定義がかなり曖昧というか、ずいぶんと鷹揚なのが下町の魅力だ。そんな壁がない店舗のひとつ、源記腸粉はくだんの龍津路から南下する貴華路で 30 年以上の歴史を刻んできた。このあたりを歩いていて、広東でよく見かける赤いプラスチックの椅子と人だかりをみつけたら、きっとそこが源記腸粉だろう。

 

広州の腸粉は大きな一枚物の絨毯で、ほかの街のちまちまとした「ライスロール」とは別次元の野性的な美味しさが特徴だ。過激な競争原理によって、異常なレベルにまで洗練された香港の飲茶でも、腸粉についてだけは広州のものに匹敵しえない。「源記腸粉は広州式腸粉のホームラン王です」と、誰かが言ったとか言ってないとか真偽はともかく、この店もインターネットによって随分と有名になってしまった。観光シーズンには、やたらと上機嫌な観光客たちに呪詛の言葉を吐きながら、長蛇の列に並ぶしかない。

 

広州の腸粉専門店には、アルミのそっけないテーブルがよく似合う。サービスも、もちろんそっけない。自分の注文が聞き取れないと、店員さんに激しく叱責されることも。だいたいが広州には暑すぎる季節しかないので、アウトドアでワイルドな食環境もじわじわと体力を削りにくる。一体、広州人はこんな環境で食事して楽しいのだろうか。。。そして、幾重にも張り巡らされたバリアとトラップを乗り越えた末に、辿りついた一皿が、陶酔のひと時を与えてくれた。

 

食は広州に在り。ヒトは西關に在り。

【源记肠粉 (华贵路店)】
广州市茘湾区华贵路 93 号
営業日時: 月〜日 8:00 – 19:00

龍津路の伍湛記

前回に引き続き、広州の下町グルメをご紹介する。「西關」は、もともと広州が城壁に囲まれた都市であった頃、西の城門の外に位置した地域だ。以降、拡大した広州の中心地として繁栄し、対外貿易が盛んになった 19 世紀末からは、西關大屋と呼ばれるユニークな様式の建築が数多く建てられた。現在でも、広東地方独特の騎楼が此処そこに残り、風情ある街並みを楽しむことができる。なにより、広州本来の味覚を堪能しようと思ったら、この西關地域を訪れるに如くはない。

 

「伍湛記」は 40 年以上の歴史をもつ西關を代表する老字号の一つだ。老広州ならではの状元粥が名物だが、ほかにも、咸煎餅や干炒牛河などはぜひここで食べてみたい。人気の咸煎餅は、時間帯によって売り切れていることもしばしば。一見、単純な揚げ菓子だが、ほのかな甘みがやみつきになる。出来たて熱々、油ぬらぬらの干炒牛河は、文字通り寿命と引き換えの美味しさ。

 

ソーシャル・ディスタンスへの配慮もバッチグーで、店員のおばちゃんたちは、いつも 10 メートルの距離を保って大声で会話をしている。ここでは、おばちゃんたちのイキのいい広東語も、料理の味を引き立てる恰好の BGM だ。

 

B 級グルメと切って捨てるにはもったいない、広州伝統の庶民の味。伍湛記は現在、荔湾区の美食ストリートとして名高い龍津路で 2 店舗を経営しているようだ。龍津路にかぎらず、この一帯では、数多の老字号、名店、個人商店が頑張っている。「書を捨てよ、町へ出よう」。インターネットの情報なんかに頼らず、ときには自分の鼻と舌だけを頼りに、あなただけの Stammtisch (常連席) を見つけてみては?

なお、珠海 – 広州間の移動については、当ウェブサイト内の「珠海から広州へバスで」も参照していただきたい。  https://zhuhai.jp/buskwc.html

【伍湛记 (龙津中路店)】
广州市茘湾区龙津中路 344 号
営業日時: 月〜日 7:30 – 23:00

その他、龍津東路に店舗有り

普洱茶で一抹の涼を

日本も珠海も広州も、酷暑が続いている。こんなときには広東人の魂、普洱茶 (プーアル茶) で涼をとってみるのはどうだろうか。大益茶といえば、普洱茶界のジオン公国と称される大企業で、大益のアンティークな普洱茶餅など、好事家の間でポケモンカード以上の値段で取引されている。数十年前の茶餅などはとても手を出せない値段だが、中産階級の日本人は大益の直営店で、世にも珍しい普洱茶のアイスクリームを楽しんでみよう。

場所は広州の下町随一のインスタ映えスポット、永慶坊。上下九というちょっと変わった名前の繁華街から、荔湾湖公園に至る一帯が、近年大規模に再開発された。永慶坊は、この再開発の目玉とも言うべき場所だ。これにより、昔ながらの古色蒼然とした静謐な「西關」の雰囲気は失われてしまったが、一定の経済効果は有るのだろう。休日など、以前と比較にならない人出の多さだ。ちなみに、ブルース・リーが幼少期に住んでいた家もここにある。

「大益茶庭」は、大益が総力を結集して作ったトレンディでオシャンティな普洱茶カフェだ。(たぶん) ここでしか食べられない普洱茶のアイスクリームは、蒸し暑い広州の街歩きに疲弊した身体を、ひんやりと癒してくれる。他にも、賞味期限が異常に短いフレッシュな普洱茶ソーダなどもあり、こちらも暑い日にはオススメ。近未来的な内装の店内では、普洱茶葉以外に、大益所有のプロ・バスケットボール・チームのグッズも販売されている。どうやらこのチーム、毎年のように中国国内リーグを制覇しているようで、まさにジオンの名に恥じない戦績だ。

なお、珠海 – 広州間の移動については、当ウェブサイト内の「珠海から広州へバスで」も参照していただきたい。  https://zhuhai.jp/buskwc.html

【大益茶庭 (永庆坊店)】
广州市茘湾区恩宁路永庆大街21号
営業日時: 月〜日 11:00 – 21:00